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デザイナー対談02:小口 大輔・瀬戸川 裕太/HEMU × 井上 碧海 | 日本元気プロジェクト2021 世界遺産ランウェイ in 富士山 Produced by KANSAI YAMAMOTO, INC.デザイナー対談02:小口 大輔・瀬戸川 裕太/HEMU × 井上 碧海 | 日本元気プロジェクト2021 世界遺産ランウェイ in 富士山 Produced by KANSAI YAMAMOTO, INC.

INTERVIEWER:村重 達也

HEMU

HEMU

小口大輔(デザイナー) 写真(右)
瀬戸川裕太(デザイナー) 写真(中央)

パーソナルブランドを持つデザイナーから構成されたデザインチーム及びファッションブランド。「For people(=He/She/Me/You)」をキーワードとし、日常見過ごす些細で断片的なイメージをもとにエモーショナルなコレクションをシーズン毎に発表している。

井上 碧海

井上 碧海

文化服装学院

⾼校卒業まで埼⽟県深⾕市で育つ。幼い頃からファッションに興味を持っており、⾼校卒業後は⽂化服装学院に⼊学し、現在はファッション⾼度専⾨⼠科に在籍。コラボレーション企画や⽂化祭ファッションショーの企画などを通じて⾃分⾃⾝のテイストと求められていることを上⼿くミックスさせながら企画⽴案を行っている。

INTERVIEW TITLE

富士山に一番近いまち、富士吉田市。古くから織物のまちとしても栄えた富士吉田の地場産業の端材を用いたアップサイクリング作品を製作したHEMU。そしてHEMUの2人が選出した学生デザイナー 井上さんは、スローライフをテーマにリラックスしたムードの作品を製作した。内に秘めたるエネルギーがありながらも、肩肘を張らずに自由なクリエイションを行うHEMUと井上さんが今の思いを語る。

作品のテーマは小説から

今回の日本元気プロジェクトに応募した理由と、製作された作品のテーマを教えてください。

井上:
日本元気プロジェクトの存在は知っていて、昨年学科の先輩の作品も日本元気プロジェクトで紹介されていたので、そういった先輩の活躍を拝見して、私も参加したいと思いました。すごいエネルギーを感じたんですよね。自分も何かしきゃ、という気持ちが、ふつふつと湧いてくるというか。
製作した作品のテーマは「スローライフ」です。読書が趣味で、西加奈子さんの『白いしるし』という小説からインスピレーションをもらいました。登場人物が画家だったりして、独特の生き方をしているんですよね。世間の制約にとらわれない、人生を思うままにゆっくり楽しむみたいな、自分のペースで楽しんでいて、そういった生き方に触発されてこの作品を製作しました。

HEMUのお2人が、井上さんの作品を選んだ理由は?

瀬戸川:
僕が井上さんの作品が良いなと思って選ばせてもらいました。選ぶ時はコンセプトやテーマもわからなくて、応募された作品の写真だけで選ぶ形式だったんですが、その時は感覚的なものだけど、スローライフとか小説とか、そういうのが好きなんだろうなっていうのが、スチールから滲み出てて。それで、この人に会ってみたいなと思って。作品の見せ方がすごく上手だと思いました。

HEMUのお2人は、過去に学生として日本元気プロジェクトに参加していたんですよね。

瀬戸川:
はい。2019年に二人とも日本元気プロジェクトに参加して、実際に自分たちそれぞれの作品が東京と、大英博物館で開催されたショーで発表されました。僕は昨年の元気プロジェクトにも参加させていただいて、3年目の今年はブランドとして、学生とは異なる立場で参加することになったので、いい感じのプレッシャーを感じながらこの場におります。
井上:
見ました。去年の白いドレス。
瀬戸川:
ゴミ袋の?
井上:
はい。その方に選んでもらえて嬉しいです。

作品について改めて聞きたいのですが、これはどんなデザインですか?

井上:
トップスの部分で、プリントされている「ZINK WHITE」というのは、インスピレーションのもととなった小説の、主人公の画家が使っている絵の具の色の名前です。画家にとっては色自体が“しるし”というか、自分の証しみたいなものだと。本を読んでいて、そこに強く惹かれたので、私もこういうふうに服に乗せることで、自分のしるしじゃないですけど、そういうのを表したいなと思いました。トップスはワッフル素材の部分以外はニットになっています。家で過ごす感じの、リラックスできるイメージでデザインしました。
小口:
スカートの部分は、メッシュと綿?
井上:
はい。主人公の考える気持ちが膨らんでいくイメージで、ギャザーを寄せて、一個一個星どめしていったら、面白い形になるかなと思って。結構こだわりました。
瀬戸川:
このニットは、オリジナルで編んだんですか?
井上:
はい。一応、機械編み機を自分で動かして編みました。

富士山形成のプロセスをデザインに

ここから少し、HEMUさんの作品についても教えてください。

瀬戸川:
今回生地で使ったのは全部、富士吉田市の地場産業の傷物というか、いわゆるB品と呼ばれるものです。品質は高いけれど切れ端だったり、ちょっと汚れてしまったとかで廃棄される素材をいただいて作品にしました。ファーのように見えているのが生地の「耳」と呼ばれるものの、さらに外側の部分なんですが、服を作っている人でもあまり出会うことがないと思います。すごく厄介で、うちの作業場も一面ピンクや黒になって大変だったんですが、一手間、二手間加えると、こういう形で見せられるんだなって、面白かったです。

普段から、捨てられる素材をデザインの力で蘇らせるみたいな、サステナブルを意識したものづくりをされているんですか?

瀬戸川:
HEMUのメンバーの中では、一応僕が一番意識してやってるのかなと思うんですが、ただブランドの共通認識としても、ニューノーマル、そんな肩肘張ってサステナブルがどうだとかっていう主張をするつもりは全然なくて。とはいえ服作りをする上で全くそういう意識を持たないのも変ですし、多分考えないっていうのが一番よくないから、もっとラフに、捨てちゃうんだったらこれ使おうよ、くらいのスタンスで取り入れてます。

デザインのインスピレーションはどこから?

瀬戸川:
せっかくの機会なので、「富士山」をデザインの中に組み込みました。富士吉田市に伺った際に、開館前のふじさんミュージアムに入れていただいて、そこで見た溶岩と、今の富士吉田市の自然の写真からインスピレーションを得ています。その二つがとても対照的で、富士山が出来上がっていくプロセスみたいなものもすごく面白くて。今、僕らが見ている富士山は、ちょっと前の富士山とは違うんですよね。それってすごくファッション的だなって。それで、作っていく中で、しわの入ったテクスチャーで溶岩だったり、あとは噴火のイメージを表現したりとか、だいぶ二人で試行錯誤しました。

メンズの作品は小口さん、ウィメンズの作品は瀬戸川さんが製作されたんですよね。

小口:
はい。共通認識として、今回瀬戸川が富士山の形成プロセスのようなものをイメージグラフィックとして作って、それに基づいて僕はメンズのルックを。パンツの裾のパッチワークのあたりは、富士吉田の自然や、岩のようなイメージを反映しています。あともうひとつ僕がやりたかったのが、富士吉田市って本当に富士山が近いので、人と富士山のサイズ感の対比みたいな感じで、ボトムにボリュームを出しました。HEMUとしてもそうだし、僕のブランドでもそうですが、メンズの服を作る時はいつもニュートラルなメンズ像を目指していて。メンズでもレディースでもない、でもメンズみたいな。今回はそれを誇張させて、スカートとパンツを合体させたようなデザインにしたり、あとスタイリングのところでいうと、ポケットに手を突っ込みながら野暮ったくドレスを着せられてるみたいな、そんな雰囲気が全体的に伝わったらいいかなと思います。

表の生地、これって富士吉田のベンベルグですよね?スーツとかの裏地に使われる素材の。よく見るとかなり細かくステッチが入っていますね。

小口:
ベンベルクは単体の生地としてはどうしても弱いので、芯地を使わずにステッチと、裁断した時に余った生地を重ねて強化しています。北海道のドンザとか、刺し子みたいな。昔、舞台衣装の仕事で、ドンザとかいろいろ作ってたんですけど、研究していくうちに、接着芯を使わなくてもステッチと生地を重ねるとすごく長持ちするし、原始的でシンプルなところに、実は機能性があるってことに気付いて、そうした手法をヒントに今回の作品にも応用しています。

ベンベルグって、しなやかで裏地にぴったりだけど、てろっとした素材ですもんね。それをギミックの積み重ねで、こんなに構築的なシルエットが出せるとは驚きました。
ちなみに、現地の織物工場を訪れた印象はいかがでしたか?

瀬戸川:
僕は学生の時から機屋さんとか工場さんが結構好きで、色々なところ巡っていて。今回は富士吉田市の3つの工場にお邪魔したんですが、きれいだし、若い方も働いていらっしゃって、活気のある産地なんだなっていう印象です。なんだかパワーをもらいました。

富士吉田市は日本有数の織物のまちですし、近年は様々な特徴を活かして上質なモノづくりを展開するファクトリーブランドも台頭したりと活気づいていますが、とはいえ機屋さんの数は年々減っていて、そういった現状についてはどう思われますか?

瀬戸川:
正直今までベンベルグは単に裏地としてしか見ていなかったんですが、今回実際に工場にお伺いして、自分たちの作品に表地として使わせてもらったり、新しい取り組みをする中で改めて技術力の高さを感じました。あれだけの細い糸で織れるっていう、繊細さ、それを可能にしている技術は、本当に継承されていかないとだし、むしろより発展させていくために、僕たちのような若いデザイナーもご一緒できればと思っています。
小口:
富士吉田市で、B反を一般の人でも購入できるイベントをされていたりするの、すごく良いなと思います。デザイナーとして何かそういうイベントを作ったり、関われたらいいですね。

個人の作家性と、チームだからこそ生まれる意外性。その両方を大事に

ところで井上さんは、もうすぐ卒業ですか?

井上:
はい。来春卒業して、アパレル商社に入社が内定しています。まずは仕事の流れを理解して、そこから将来的に自分のブランドというよりは、今回のような企画やイベントのプランナーとして独立できたらいいなと思っています。

お二人は、ファッションの企画のお仕事も多いですよね。そういう時、どうやってイマジネーションを働かせているんですか?

小口:
僕は舞台衣装とかユニフォームの企画の仕事をすることがあるんですが、実際に現場に行って、演者さんの立ち回りを見たり、意見を聞くことが、結果的にクリエイションの参考になっていることが多いかもしれません。実務の中からインスピレーションが生まれるというか。
瀬戸川:
僕はどちらかというと真逆で、それこそ井上さんみたいに小説とか、あとはなんか、ひらめきというか、頭の中でパァンって始まる感じです。小口はリアリスティックだよね。
井上:
真逆のお二人が一緒にチームでやろうってなったきっかけはなんだったんですか?
瀬戸川:
元々、お互い国内のコンテストに参加していたので、名前と顔くらいは知っていたけど、それこそ2019年の日本元気プロジェクトに参加して、そこから仲良くなった感じですね。
井上:
価値観が異なる中でも、チームで活動するメリットというか、チームならではの良さみたいなものはどういうところにありますか?
瀬戸川:
それぞれブランドをやっていて、けど一人じゃどうしようもできないこともあるんですよね。ビジネス的な部分で、情報をシェアしあえたり。あとデザインでいうと、お互い美学は真逆だったりするので、その上でどこに落とし込むか、要素として薄まってないか、より強いものになっているか、見極める必要があります。HEMUは5人のチームなので、チームでやるからこそ、できることもあるし、やりにくいこともある。でもチームでやるからこその、まだ見ぬ感じ。一人でも作れるけど、いろんな価値観や要素が入って、もっとブラッシュアップされることで、「うわ、こんな素敵になるんだ」っていう発見があるんですよ。一人の作家性を突き詰めることもとても大切なので、それは各々のブランドで。でもいろんな人に着てほしいし、知ってもらうために、HEMUの活動も大切にしています。要はバランスなのかなって思いますね。