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デザイナー対談03:高谷 健太/KANSAI YAMAMOTO ×  稲垣 美里 | 日本元気プロジェクト2021 世界遺産ランウェイ in 富士山 Produced by KANSAI YAMAMOTO, INC.デザイナー対談03:高谷 健太/KANSAI YAMAMOTO ×  稲垣 美里 | 日本元気プロジェクト2021 世界遺産ランウェイ in 富士山 Produced by KANSAI YAMAMOTO, INC.

INTERVIEWER:村重 達也

高谷 健太

高谷 健太

(デザイナー・クリエイティブディレクター)

KANSAI YAMAMOTO

北海道札幌市出身。東京モード学園在学時より、ファッションデザイナーの登⻯⾨でもある『装苑賞』や『東京新⼈クリエーターズコレクション』など、数々のファッションコンテストに⼊選。1998 年より師である⼭本寛斎とともにファッションデザイン、イベントの企画演出をはじめ、国際博覧会、地⽅創⽣事業など、ジャンルを超えたプロジェクトを国内外で幅広く⼿掛ける。

稲垣 美里

稲垣 美里

名古屋ファッション専門学校

岐阜県多治見市出身。本プロジェクトで選出された作品はNAGOYA FASHION COLLEGE FASHION FESTIVAL 2021にて奨励賞・オーディエンス賞を受賞。2022年の春からは企業デザイナーとして、多くの人が元気になれる様な洋服作りを提案する。

INTERVIEW TITLE

日本元気プロジェクトの総監督であり、KANSAI YAMAMOTOのクリエイティブを担う一人として、山本寛斎氏の遺志を継ぐ高谷さん。世界遺産ランウェイを企画した彼が今回選んだのは、稲垣さんが製作した「無限の宇宙の広がり」を表現した作品。自身の感性にも通じるものがあったという稲垣さんのクリエイションとは。そして高谷さんが今回のランウェイに賭ける思いを語る。

コンセプトは「宇宙」

なぜ日本元気プロジェクトに応募しようと思ったのですか?

稲垣:
学校の授業で昨年の日本元気プロジェクトの映像を見る機会があって、それで今年は応募できるって聞いたので、楽しそうだなと思って応募しました。ファッションショーは屋内で行うイメージを持っていたので、富士山の麓で開催すると聞いて驚きました。全然想像がつかないというか。そんなロケーションで自分の作品を着たモデルさんがランウェイを歩いてくれるなんて、とてもワクワクしています。

作品タイトルがINFINITE。これはどんな作品ですか?

稲垣:
無限に広がっていく感じや、謎に包まれているところ、そういった宇宙の魅力に興味があったので、学校で2年次の進級製作作品として作りました。テーマが「無限」なので、色や素材、大きさ、形とかも、何も決まりを作らずに、思うままに自分でパーツを足していきました。製作の過程では自分でもどうなるか予想がつかなくて、そのままどんどん足していったら、最終的にこのような作品になりました。

高谷さんが稲垣さんの作品を選んだ理由はどんなところにあったんですか?

高谷:
大きくふたつあって、まず今回掲げている日本元気プロジェクトのテーマに近いイメージの作品だったことですね。「KANSAI YAMAMOTO」の作品に込めたメッセージにも共通するところでもあるんですが、いろいろなものが繋がって、重なり合って、広がって、最終的にひとつの作品になっている感じ。ひとつひとつのパーツは異なるけれど、連帯感がある。「宇宙」とか「無限」とか、そういうコンセプトは全く知らずに選んだんですが、でもそういった大きな概念で作られている作品が、自分の感覚とフィットしました。もうひとつは、山本寛斎だったら何を選ぶか。寛斎にとってファッションとは、突き詰めると「問答無用」なんです。全体から出ているエネルギーというか、それは作品の持つ「主張」であったり、色の美しさであったり。ディテールにもすごくこだわるけれど、こだわる理由っていうのが、最終的にその服を見た人が有無をいわずに「すごい!」とか「きれい!」って感じるかどうか。そういう観点で、おそらく寛斎も稲垣さんの作品を選んだんじゃないかなと。師匠の目線、まなざしっていうのも意識しながら選ばせてもらいました。

着る人を元気にできる服「元氣の衣(ころも)」

一つ一つ手縫いでパーツを付けたんですか?

稲垣:
はい。メッシュ素材のワンピースで土台を作って、そこに全部手縫いで付けました。オーガンジーとか、サテンとか、ウールとか、ラメのメッシュの素材など、付いているパーツもひとつひとつ手作業で作りました。たくさん作って、ひたすら付けていくという作業の繰り返しです。遠くから見たら編んでるとは分からないと思いますが、メリヤス編みに挑戦したり、いろんな色や種類のリボンを使って編んだところはとてもこだわりました。

実際の作品を見ると、細部まで本当にこだわって作られていますね。

高谷:
本当ですね。師匠である寛斎の哲学に「元氣の衣(ころも)」というものがあるんです。「人はキレイな服、カッコイイ服を着ると、気持ちが上がって元気になる」っていう、ファッションに対する本質的な考え方です。寛斎は、生涯ファッションやイベントを通してそれを表現し続けていました。だから、僕は今日のフィッティングで、稲垣さんの作品を着たモデルのIREDIAさんの表情だったり、オーラみたいなものをしっかり見ておきたいなと思って。色やボリューム感もそうだし、稲垣さんがこの作品にかけた思いやエネルギーが、しっかり伝わっていたと思います。彼女の気持ちもすごく上がってて、「この服を着たい!」っていう、いい表情をしてましたよ。

今回ランウェイで発表される「KANSAI YAMAMOTO」の作品も、まさに着る人を元気にする「元氣の衣」なんですね。作品に込めた思いなど聞かせてください。

高谷:
「KANSAI YAMAMOTO」の作品はもちろん、映像全体を通してそういったエネルギーや、メッセージが伝わればいいなと思います。今も首都圏を中心に緊急事態宣言が続いているので、本来であれば稲垣さんとも直接お会いしてお話したいし、衣装フィッティングも実際に見てもらいたい。けど、できない。今この部屋でも、スタッフはみんなマスクをして、アクリル板も設置して、同じ場所にはいるんだけど、閉塞感があって、分断されているんですよね。そういった現状を、このプロジェクトを通じて繋ぎ合わせたいなと思ったのが企画の始まりです。なので「KANSAI YAMAMOTO」の作品のひとつは、時代を超えて、江戸末期〜昭和初期くらいまで、1,000ピースを超える着物地を縫い合わせて作品にしました。イメージは、北口本宮冨士浅間神社で祀られている「木花開耶姫(コノハナサクヤヒメ)」。日本神話に登場する富士山の女神です。病や禍を「はね=(羽根)」のけるという意味を込めて伝統工芸の羽子板を用いたバッグもコーディネートしています。もうひとつの作品は、せっかく富士吉田で発表するので、現地の先染織物を用いた作品を製作しました。江戸時代の和装文化では、表地よりも裏地に高価な生地を使われていたり、派手な絵柄が施されていることを「裏勝り」と呼んで、そういった趣向が「粋」とされていたんですね。当時富士吉田で作られる「羽裏(はうら)」はとても人気で、そういった歴史や文化が脈々と受け継がれて、今はスーツなどの裏地を作っていたりするんじゃないかなとか、そういったファッションの歴史に思いを馳せながら製作しました。

今回のプロジェクトを富士山で開催すると決めた理由についてもお伺いしたいです。

高谷:
先ほども申し上げた通り、このプロジェクトを通じて「連帯」や「共感」を分かち合いたいというのが大きなテーマでして、そんな中、多くの方々の思いを一つにできるところ…と思いを巡らせたところ、「日本人にとっての誇りであり、自然美の象徴である富士山しかない!」と直感的に決めました。その後富士吉田市への訪問を重ねる中で、富士信仰における富士山の根本思想は「不二」であることを知りました。「二」ではない、男女の区別もない「一」であるという考え方です。そんな場所で、みんなの気持ちが一つになるようなことができたら、「日本元気プロジェクト」らしい企画になるんじゃないかなと。

心に留まった言葉をノートに書く。その語源を紐解きながら、イメージを膨らませる。

稲垣さんは、この機会に高谷さんに聞いてみたいこととかありますか?

稲垣:
私は普段創作をするときに、どうしてもアイディアが湧かないときがあるんですが、そんな時、高谷さんはどうやってクリエイションを生み出しているんですか?
高谷:
僕の場合は、とにかく思うことをノートに書き出して言葉からイメージを膨らませていきます。例えば今回のランウェイの開催地である富士吉田市。富士吉田といえば、ハタオリのまち。じゃあハタオリって、どういう字を書くのかなって思ったら、「機織り」ですよね。機械の「機」っていう字。「幺」という字が2つ入っていて、これは小さい、細かいといった意味だそうですが、糸にもこの形が使われていますよね。もしかしたら機械って、もともとは糸で布を織るための道具が語源になっていたりするのかなとか。そういった膨大なメモをベースに想像力を広げています。
あともうひとつ、今年の日本元気プロジェクトの構想中に、寛斎の言う「元氣の衣」って何なのかなって、コロナ禍になってから改めて考えてみたんですね。正直みんなコロナで苦しいし、一生懸命やってる中で一方的に元気って言われても、ちょっとつらいかなって。どういうふうに、ファッションで「元氣」というものを表現したらいいのか、(今回のプロジェクトに参加するデザイナーの)串野さんに相談したことがあるんですが、そのときに、彼が「内服薬とか服用とか、薬にまつわる言葉って服って書くよね」と言っていたんですね。布とか衣服に薬草とか、そういうものを湿らせたりしてたのもあるだろうし、体に纏うものが、自らを守ったり、元気にしたりとかあるよね。だから、ファッションで元気っていうのはあり得るよというような話を串野さんとしていて。だから服って薬にもなるんだなっていうのも、語源からのインスピレーションのひとつ。言葉から連想するものをどういうふうに形にしていくかっていうのが、僕のクリエイションのスタイルです。

最後に稲垣さんへのエールをお願いします。

高谷:
夢を諦めないで欲しいですね。これから社会に出て、多分苦しい局面もあると思うんですが、そんな時は是非、山本寛斎と高谷健太から太鼓判を押されたことを思い出して下さい。諦めずに、前へ、前へ、進んでいってほしいです。