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デザイナー対談04:山口 壮大/KORI-SHOW PROJECT × 糸永 俊樹 | 日本元気プロジェクト2021 世界遺産ランウェイ in 富士山 Produced by KANSAI YAMAMOTO, INC.デザイナー対談04:山口 壮大/KORI-SHOW PROJECT × 糸永 俊樹 | 日本元気プロジェクト2021 世界遺産ランウェイ in 富士山 Produced by KANSAI YAMAMOTO, INC.

INTERVIEWER:村重 達也

山口 壮大

山口 壮大

(ファッションディレクター)

KORI-SHOW PROJECT

愛知県常滑市出身。文化服装学院卒(第22期学院長賞受賞)。 2006年よりスタイリスト、またミキリハッシンディレクターとして活動開始。2012年渋谷PARCOに次世代型セレクトショップ「ぴゃるこ」をオープン。 歴史と未来を今に繋ぐことを信念に、ショップ・展示・イベントの企画や、企業・ブランド・工場・職人と連携した商品開発を行う。

糸長 俊樹

糸長 俊樹

エスモード ジャポン

神奈川県出身、北海道大学地球惑星科学科卒。コンセプトは「少女の心を持った大人」。男であるコンプレックスを服で表現。着るだけでなく見ていて楽しい服作りを意識している。

INTERVIEW TITLE

和の発想を日常に落とし込み、ユニークなのプロジェクトを次々と手掛ける気鋭のファッションディレクター 山口さん。そんな彼が今回選んだのが、意外なキャリアを持つエスモードジャポンの糸長さん。地球惑星科学科卒業という理系出身の学生デザイナーだ。その作品と思いとは。そして山口さんが世界遺産ランウェイで表現するテーマとは?

“ラッピングジャケット”のコンセプトはどこから?

なぜ日本元気プロジェクトに応募しようと思ったのですか?

糸長:
日本元気プロジェクトのことは母校の卒業生の瀬戸川さんが過去に参加されているのを見て、話も聞いていたので知っていました。それで、今年も作品が応募できることを学校の先生から教えてもらったので、是非にと思って応募しました。
山口:
作品のタイトルを“ラッピングジャケット”とお伺いしたのですが、ラペルドジャケットでも、服としては成立すると思うんですけど、あえて、そこの上にレースをラッピングするというデザインは、どういうコンセプトから着想されたんですか?
糸長:
テーマについて考えているとき、ちょうど大きなごみ袋と古着のジャケットを使って洋服のデザインを考えていて。それで、ごみ袋をジャケットの上にまとわりつかせたときに面白いシルエットがないかなって探す中で、見つけたシルエットがこれです。ごみ袋からのアプローチなので、生地とかも、ごみ袋ならではのハリ感がある地を探して選んで作りました。

山口さんは、この作品を写真で見て選ばれたんですよね?

山口:
はい。今はじめて実物を拝見しているのですが、思っていた作品と全然違いました(笑)。ぱっと拝見した選考のときは、日本的なムードと洋装のムードがバランスよく混ざっているなと思いました。加えて、フェミニンでガーリーなムードと、マニッシュで洗練されたムードと、相反するいろいろな要素が上手に混ざっている感じがいいなと思い、選ばせていただきました。

今日改めて実物の作品を見て、どんな印象ですか。

山口:
写真で拝見したときは、和の要素のほうが強いなって思ったけど、実際に拝見すると洋服に和のニュアンスをラップしている感じですね。ただその考え方であれば、ベースが洋服になるので、動いたときにきれいじゃないと説得力がなくなってしまうかも。手を上げたときとか、そういった動きの中での見え方を意識すると、より良いかなと思います。プラスアルファの話ですが。
糸長:
普段僕が服作りをする上で、日本のポップカルチャーに影響を受けているので、服に対する考え方、ニーズなんかも日本的なので、そういうのが作品に現れたのかなって思います。袖が、ちゃんと上がりはするけど、ちょっと動かしづらかったりするところは、和の要素を取り入れているというか。動きの中での見え方…なるほど、そうですね。
山口:
ファッションショー的な見せ方ではそんなに気にならないので、少しいじわるな視点かもしれませんが、今回掲げているコンセプトが、洋服がベースになっている以上、クリエイティブを考える上での初期段階、一歩目、二歩目ぐらいで直面しなければいけない大切なポイントなので、そこがしっかり練られているとより説得力が増すかなと思います。

地球惑星科学課からファッションデザイナーへ⁉

糸長さんは大学で地球惑星科学を学んでいたんですよね?なぜファッションデザイナーになりたいと思ったんですか?

糸長:
大学時代も、何かデザインに関係することを将来やりたいなと思っていました。ただ、技術もないし、知識はそこそこあっても、どの分野に対しても詳しいわけじゃないなと思って。それで、いろいろ調べていくうちに、ファッションデザイナーって大学卒業している方もいるじゃないですか。それがまず一つのきっかけで、大学2年生か3年生ぐらいのときに初めて自分でミシンを買って、洋服作りを始めたんです。そしたらすごく楽しくて。そこからはまって、将来ファッションデザイナーになりたいなと思って、大学卒業後に専門学校に入り直しました。大学で学んだことは直接繋がっていませんが、パターンの作業は、自分が理系っていうこともあって、丁寧にやるようにしています。

和装ではなく、和の発想

山口さんといえば、和服をモダンにアップデートしたスタイリングを得意とされているイメージですが、和のフィルターを通したクリエイションを行うようになった原点はどういったところにあるんですか?

山口:
両親が共働きだったので、子どもの頃は祖父母の家に預けられていたんですが、おじいちゃんが養蚕農家で、おばあちゃんが和裁をやっていました。当時は気付いていませんでしたが、足踏み式のミシンや和裁の道具などが自然と存在していた生活が原体験になっているかもしれません。中学生くらいからファッションに興味を持ち出して、その時は古着にはまりました。自分でスタイリングしてみたり、作ってみるのも面白いなと思って、初めて作ったが「もんぺ」。イージーパンツを作ろうと思って作ったら、もんぺになっちゃって。友達にすごいからかわれました。でもそれが初めて自分でものづくりをした瞬間で、それ以来、日本人ならではのクリエイティブをしたいなっていうのは、漠然とずっと頭の中にあります。文化服装学院のスタイリスト科に入ってからは、相反するさまざまな物事をコーディネートでリミックスして、一つのスタイルに落とし込むことが楽しくて、ずっと取り組んでいました。そこでよく引用してたのが、日本の物事と、欧米の物事を掛け合わせること。今のスタイルは、そういったアプローチが発展していったものだと思っています。

そういう意味では、今回の「世界遺産ランウェイ」は日本を象徴する富士山の麓での収録、しかも富士吉田は織物文化としても古くから歴史があるまちですし、山口さんにとっても思い入れの深いランウェイになりそうですか?

山口:
そうですね。今までにも寛斎さんのチームとご一緒して、たくさんのことを学ばせてもらいましたし、いい経験をさせていただいたので、その恩返しが出来たらいいなと思います。

和装の文化を未来に繋げていきたい、といった思いもあるのでしょうか?

山口:
はい。でもそれを、単に日本の伝統・文化の礼賛みたいにはしたくないんですよ。例えば着物って、自分でも着てみたい欲求はあるんですけど、未だに着れないんですよね。すごく好きだし、興味もあるし、所有もしてるけど、普段着の中に取り入れられない。なんで着れないのか考えるてみると、着物を着て街に出掛けると、ファッション感覚で普段着として楽しんでるんじゃなくて、非日常的に和装を楽しんでいるような、謎のムードが漂ってしまうというか。ファッションを楽しんでいるレールから逸脱してしまって、着物が好きな人なんだなって受け取られてしまう。そのムードを少しでも変えられたらいいなと思って、僕の場合は着物をデザインで普段着に寄せていくことはせずに、あくまでも着物のまま、今の生活にフィットさせていく提案をしています。せっかく和装っていう面白い文化があって、それこそ織りや染めでいったら今よりもずっと凝ったものが作られていたんですから、普段の暮らしで着る物の選択肢として、残っていてほしいんですよね。

着物の着方や、日常における着物の在り方をかつ柔軟な視点で見直していくというのは、昨年「KORI-SHOW PROJECT」で発表された「2021 S/S Collection "うつつ”」もその一環になるのでしょうか?着物の”佇まい”の情緒を、AI(機械学習)を用いて可視化するというのも、表層的な「着物」の捉え方ではないというか、斬新なアプローチですよね。

KORI-SHOW PROJECT(コリショウ プロジェクト) 2021 S/S Collection "うつつ”
https://www.youtube.com/watch?v=XvSn7IrS6dE

山口:
AI(機械学習)は、アーティストユニット”ITTAN”と連携して取り組んでいるのですが、理解すればするほど、人間の英知を超えるとかそういう物差しではなくて、全然別次元の思考回路で、全ての物事をフラットに俯瞰しながら学習していくのがとても面白いなと思いました。僕らであれば、着物って聞いただけですごいバイアスかかっちゃうじゃないですか。重たい伝統や、長くつづく歴史でさえもフラットに眺めて、それを機械的にただ学習して、アウトプット出来るってすごいことだなーと。いいとか悪いとかではなくて、自分には出来ないから、好奇心がすごく湧きました。
糸長:
普段からそういうプロセスを踏んでデザインしたりすることが多いんですか?
山口:
そうですね。僕はデザイナーじゃなくて、ディレクターなので。ゼロから1を自分で生み出して、自分のエゴを貫いていくようなデザインは全然できなくて。大切に守りたい要素と、積極的に壊したい要素をわっとテーブルの上に広げて、優先順位を付けて、スタートとゴールを定めていく感覚で様々なクリエイティブと向き合っています。1人で何かをやっていくことは、ほぼないんですよ。いろんな方々と連携して、プロジェクトを創っています。

すごく興味深いですね。ちなみに今回の世界遺産ランウェイでも、内田染工の職人さんと一緒に、拭き付け染めっていうものを行ったんですよね。

山口:
今回ランウェイで使用する着物を、僕らは「YOGI」って呼んでいます。寝具と服のちょうど中間として江戸時代頃まで存在していた「夜着」がルーツなのですが、ホームウェアとして今の暮らしに提案出来たら面白いんじゃないかなと思いました。オーガニックコットンと絹を混ぜて、ちりめん状にした生地で先に着物を仕立てて、内田染工の職人さんと一緒にコミュニケーションとりながら、吊るした着物にふわっと拭き付けながら染めていきました。僕の中では捺染(プリント)と染めの、ちょうど間の手法というか。伝統に倣いながらも今の感覚もラフに宿っているのが、面白いなと思って。

着物で拭き付けって、あまりないですよね?

山口:
友禅のような手書きの文化や、染めという土台はありますが、ハイブリッドに組み合わせたこの手法は見たことないと思います。作業工程が簡素化できて、コストも抑えられますし、今のムードにも合うんじゃないかなと。現実的な価格帯でこういったものづくりができると、入り口が広がると思うんです。きれいで着やすくて、どんなふうにも着ていいよっていうムードの、いわゆる”着る物”としての着物。こういった気軽に取り入れられるアイテムが入り口になって、そこから、いろんな選択肢を選べるようになるといいなと思います。

大事なのは続けること

山口さんから、糸長さんをはじめ、クリエイターを志す若い世代の方々になにかメッセージをお願いします。

山口:
続けることが大事だと思います。どうやったら続けれるかっていうことをずっと考えてやってたら、続けれるから、やめないでほしい。みんなが違ってみんながいい時代なので。ファンが多い/少ないとか、稼ぎが大きい/小さいとかじゃなくて、自分が好きだと思ってやってきたことを続けていくと、それが一つの道になる。その道が誰かの選択肢の中に入ってるっていうことが、とても大事だと思うので。とにかく続けてほしいです。